鈴与グループのビジネスモデルや知財を分析してみた

 鈴与グループは、2024年6月20日放送のテレビ東京のカンブリア宮殿で取り上げられました。本記事では、グループの本体である鈴与株式会社(以下、「鈴与」)について、番組の内容に加え、各種の公開情報に基づいて私なりの考察をしました。

 なお、番組では、物流事業とともに航空事業(フジドリームエアラインズ)についても大きく取り扱っていた印象ですが、残念ながらフジドリームエアラインズが保有する知財については確認することができなかったため、本記事では物流事業を行う鈴与を中心に取り扱います。

 本記事の結論をまとめると以下のとおりです。

  • 鈴与のビジネスモデルのポイントは、きめ細かい物流付帯作業(流通加工や製品製造)ができる体制と、ドライバーの確保にありそう。
  • まだあまり認知されていないであろうTUMIXの事業に対して鈴与の特許出願は集中していることから、今後、鈴与(TUMIX)が、物流特化のSaaS企業として存在感を増していく可能性がありそう。

会社概要

 鈴与は、資本関係上では鈴与グループの最上位に位置するとともに、同グループの主力である物流事業を行う会社です。鈴与グループは、静岡県清水市を地盤としており、物流に加えて商社、建設、食品、航空など様々な事業を展開しています。

 鈴与のルーツは、初代・鈴木与平氏が1801年に創業した廻船問屋です。ちなみに、鈴与のトップは、代々、「鈴木与平」を襲名しています。現在は8代目・鈴木与平氏が会長を務めており、そのご子息と思われる鈴木健一郎氏が社長という体制です。鈴与は、創業から200年超にわたり、時代に合わせた変化を積み重ね、現在のような多岐に亘る事業群を抱える企業グループへと成長しました。

 鈴与グループは、「共生(ともいき)」という言葉を経営の拠り所として位置付けています。これは、「1つの個を大事にしていく。そしてこの個が本当に自立をし、自分自身で生きていく中から他との共生が生まれてくる」というそもそもの意味に加えて、「会社がひとつの企業として自立し、また、社員一人ひとりも個々の社会人として真に自立し社会活動を営む中で、われわれと地域社会、お客さま、お取引先様、そして社員相互間を結びつける精神的な基盤となる」と捉えているそうです。鈴与グループの事業は相当に多角化されていますが、この言葉の浸透によりある種の一体感が根付いているのかもしれません。

業界

 鈴与は、物流業界に属しますが、会社四季報業界地図2025年版及び日経業界地図2025年版には記載がありませんでした。売上高は1,597億55百万円(2024年8月期)、従業員数は1146人(2024年8月31日現在)、経常利益は90億58百万円(2024年8月期)です。業績の規模からすると3PL事業を中心とするハマキョウレックス(売上高:1405億円、営業利益:125億円、従業員数5778人)やAZ-COM丸和ホールディングス(売上高:1985億円、営業利益:138億円、従業員数:5037人)が近そうですが、従業員数の差があまりにも大きいです。もしかすると、鈴与の従業員数は、鈴与本体に所属する人員数のみをカウントしていて、物流事業に関わるグループ企業の人員数を含んでいないのかもしれません。

 ちなみに、航空事業を担当するフジドリームエアラインズについては日経業界地図2025年版に記載がありました。業績は不明ですが、旅客数180万人・使用機材数15機という数値は、ソラシドエア、AIRDO、スターフライヤーなどに近いです。また、鈴与グループの持株会社である鈴与ホールディングスは、ANA、JAL以外では頭1つ出ている感のあるスカイマークに出資しており、近い将来に航空業界の再編等の大きな動きがあるかもしれません。

ビジネスモデル

 鈴与(物流事業)のビジネスモデルを以下のビジネスモデルキャンバスにまとめました。

 ポイントは、きめ細かい物流付帯作業(流通加工や製品製造)ができる体制と、ドライバーの確保ということになろうかと思われます。

 ドライバーの確保は、物流の核である物を運ぶという価値を実現するうえで欠かせません。鈴与は、2024年問題に早い段階から取り組んでおり、ドライバーの残業規制による収入減を賃上げで補ったり、大容量のトレーラーやモーダルシフト(RORO船)を活用することで大容量の荷物を少ないドライバー稼働でこなせるように工夫したりしています。特にRORO船では、自前でフェリー輸送ができる強みを活かしています。さらに、鈴与は、RORO船やSaaS(特許の項で説明)を外部に有償提供することで、2024年問題という業界にとっての難題を、新たな収益獲得の機会として利用しているようにすら見えます。

 きめ細かい物流付帯作業ができる体制については、顧客の物流管理コストやリードタイムの削減につながるので、顧客の囲い込みに寄与していると思われます。番組中では紹介されていなかったですが、鈴与は、単価が高い医療機器や化粧品の製造ライセンスを取得しているため専門性の高い付帯作業をオファーでき、高利益率な案件を獲得しているのではないかと推察されます。

知財

 鈴与の知的財産の保有状況について順を追って説明します。
なお、知財について超ざっくりな解説が欲しい方はこちら

商標

 商標については、鈴与は29件の商標権を保有していることを確認しました。直近(といっても、6年以上前ですが)では、2018年8~10月にかけて、TUMIXの文字商標・ロゴ商標とTXのロゴ商標を出願しています。

 TUMIXは、株式会社TUMIXないし同社が提供するSaaSを指しています。株式会社TUMIXは、鈴与グループの企業であり、配車・請求・支払い等の多数の帳票を連動させる一元管理 クラウド(TUMIX 配車計画)や、運送業に特化したコンプラ&勤怠管理システム(TUMIXコンプラ)などのSaaSを提供しています。なお、TUMIXについては、鈴与のWikipediaの中でも言及されていないことから、まだあまり認知されていないものと思われます。

 ちなみに、フジドリームエアラインズの商標権についても鈴与が保有しています。

特許

 特許については、鈴与は、5件の特許権と4件の特許出願を保有しています。興味深いことに、分野別の内訳は以下のとおりです。

分野出願件数登録件数
物流xIT43
物流作業01
その他(食品)01

 物流xITの出願のうち3件は、願書に「【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り  株式会社TUMIXに販売を行うことを依頼し、株式会社TUMIXが販売を行った。(販売日:令和4年5月9日)」との記載がありました。このため、少なくともこれら3件は、TUMIX配車計画ないしTUMIXコンプラで実施されている内容についての特許出願とみることができます。

 物流xITの特許の最先出願日は2019年4月です。このため、鈴与は、遅くとも2019年以前から、2024年問題の対策の1つとしてITシステムの開発に力を入れてきたものと思われます。TUMIXの沿革は不明ですが、開発したITシステムの投資の回収期間を短縮したいという意図から、鈴与はITシステムを自社で使うだけでなく他社向けにも有償で提供するという経営判断をどこかのタイミングでしたのだと推察されます。そして、外部から見える部分については特許権で保護しようという考えで特許出願・権利化をしてきたのでしょう。

 鈴与の特許出願はTUMIXの事業に対して集中していることから、鈴与はTUMIXの成長を期待して経営資源を投資しているのだと思われます。今後、鈴与(TUMIX)が、物流特化のSaaS企業として存在感を増していく可能性がありそうです。

意匠

 意匠について、調査時点で有効な意匠権を発見することはできませんでした。

 しかし、鈴与は、過去にトラック用荷台の意匠権を2つ(関連意匠)を存続期間満了まで保有していたことから活用意欲はあるものと思われます。今後、鈴与が車両に関する構造やデザインを改良した場合に、意匠権を取得する可能性はありそうです。

知財まとめ

 まとめると、まだあまり認知されていないと思われるTUMIXの事業に対して鈴与の特許出願が集中していることから、今後、鈴与(TUMIX)が物流特化のSaaS企業として存在感を増していく可能性がありそうです。

まとめ

 鈴与のビジネスモデルのポイントは、きめ細かい物流付帯作業(流通加工や製品製造)ができる体制と、ドライバーの確保にありそうです。

 また、まだあまり認知されていないであろうTUMIXの事業に対して鈴与の特許出願が集中していることから、今後、鈴与(TUMIX)が物流特化のSaaS企業として存在感を増していく可能性がありそうです。

参考資料

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