超基礎講座 商標とは

 超基礎講座シリーズでは、知的財産権制度を殆ど知らない人向けに私なりの言葉で要点を解説します。
なお、ユーザの理解を重視する趣旨からざっくりとした説明となりがちです。その分、正確性や細部が犠牲になっている側面が多分にありますので、本記事を踏み台にして適宜他の教材で補っていただければと思います。

商標制度の趣旨

 商標制度とは、ざっくりいうと、「自他の識別が可能であって、かつ他者商標等との関係で問題がない商標最も早く出願した人に、その商標の使用を条件無期限独占させてあげます」というものです。
このように商標を保護することで、商標使用者の業務上の信用が維持され、健全な競争が行われれば産業の発達につながるでしょう、という考えです。メカニズムは違えど、産業の発達を目指す点は、特許や意匠と同じです。他方、商標制度に特異な点として、需要者の利益の保護も目的の1つとして掲げられています。

 商標権そのものに財産的価値があるというよりかは、商標権はブランド(顧客吸引力)を構築するための土台です。登録商標の使用により蓄積されたブランドこそが商標権の価値の本質といえます。

「商標」とは

 商標には、商品に使用する標章(商標法第2条第1項第1号)と、役務(サービス)に使用する標章(商標法第2条第1項第2号)とがあります。ここで、標章は、ブランド名やブランドロゴなど、一般的にイメージされるであろう商標の本体です。しかし、法律上、商標というのは、標章単体ではなく、標章とその用途(商品や役務)とのセットで捉えます。つまり、2つの全く同じ標章を別の用途で使用するなら、両者は異なる商標として扱われるのです。

標章

 標章は、「人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの」と定義されています(商標法第2条第1項柱書)。要するに、人間が知覚できる様々な要素のうち、法令で定める具体的な要素を標章として認めています。

 標章として認められる要素は、普遍的なものではなくて、今後も新しい類型が追加される可能性があるでしょう。例えば、以下の5タイプは、平成26年の法改正により登録可能となりました。

特許庁「新しいタイプの商標の保護制度」より引用

 とはいえ、これらの応用的な商標はひとまず頭の片隅に留めておき、まずは以下の基本的な商標を着実に権利化していくことが重要と考えます。

使用

 「使用」に該当する具体的行為は、商標法第2条第3項各号に定義されています。多くの行為類型が定められており説明が長くなるので、本記事では触れませんが、以下の表がよくまとまっているので引用させて頂きます。

特許庁「2023年度知的財産権制度入門テキスト」より引用

 一般にイメージされるであろう商標の使用行為とそれほど乖離していないと思われます。

「自他の識別が可能」とは

 「自他の識別が可能」とは、商品やサービスの出所を区別できるということです。

 商標は、自他の識別が可能であることが求められる都合上、使用を継続しても誰の商品やサービスであるのかがわからない商標はそもそも登録を受けられる商標から除外されています。具体的には、商標法第3条第1項各号に該当類型が定義されています。まずは、以下の表を見て全体像を確認しましょう。

特許庁「2023年度知的財産権制度入門テキスト」より引用

 少し補足をすると、上側の三類型は使用する商品や役務との関係で認められず、下側の三類型は使用する商品や役務に関わらず認められない、という整理をするといいでしょう。

 まず、「商品・役務の普通名称」、「慣用されている商標」については、登録=独占が認められないことは分かりやすいでしょう。こうした商標登録を認めてしまっては、他者の事業活動や商品等表示の自由に対する制約が大きすぎます。

 「産地や品質等の表示」については、上記類型に比べれば問題は小さそうです。それでも、産地や品質等は、商品や役務の特徴として訴求されやすい要素であり、単に最も早く出願したというだけで誰かに独占させることは妥当でないでしょう。

 そこで、「産地や品質等の表示」については、実際に使用した結果、需要者の間で商品や役務の出所が(全国的に)認識される(識別力の獲得)に至っていることを条件に、例外的に登録が認められます。そして、「ありふれた氏、名称」、「極めて簡単かつありふれた標章」の類型についても同様の規定があります。

 最後の類型は、これら5つの類型に当てはまらないけど、商標登録を認めるべきでない事例を拾うために定められています。

他者商標等との関係で問題がない」とは

 「他者商標等との関係で問題がない」とは、公益性に反せず、かつ他人の権利等を害しない、ということです。

公益性に反しない

 公益的に使用されている標識と紛らわしい商標は登録を認められません。公益的に使用されている標識には、例えば、国旗、国際機関の紋章、都道府県の標章、博覧会の賞、等が含まれます。

 公序良俗を害するおそれがある商標、商品・サービスの質を需要者に誤認されるおそれのある商標、等も公益的見地から登録を認められません。

他人の権利等を害しない

 他人の肖像等を含む商標(その他人の承諾を得ていればOK)、他人の登録商標や(未登録)周知商標と商標・用途が同一・類似である商標、商品・サービスの出所の混同を生ずるおそれがある商標、他人の周知商標と同一・類似かつ不正の目的で出願した商標、等は登録を認められません。

 なお、令和5年の法改正によりコンセント制度が導入されました。これに伴い、他人の登録商標と商標・用途が同一・類似である商標であっても、その他人の承諾を得ていて、かつ、両者が登録された場合に出所の混同が生じないことを条件に有効に商標登録を受けることができます。

商標の類似

 商標の類否(類似か非類似か)の判断は、商標の審査及び権利行使等の場面で争点となりやすい領域です。ここでは、商標の類否は、標章(商標)の類否と用途(商品・役務)の類否に分解されること、標章・用途の両方が類似であれば商標は類似し、一方が非類似であれば商標は非類似である、ということを押さえて頂ければ十分かと思います。

特許庁「2023年度知的財産権制度入門テキスト」より引用

 

最も早く出願」とは

 「最も早く出願」とは、商標登録を受けようとする標章や用途(商品・サービス)等を記載した出願を他の誰よりも早く行う、ということです。

 前述のように他人の登録商標と標章・用途が同一・類似の商標はそもそも登録を受けることができません。しかし、出願から登録までの間には時間的ギャップがあるため、ある商標について出願してから登録を受けるまでの間に、標章・用途が同一・類似の他の商標について出願がされる場合があります。この場合、最も早い日に出願した者のみが商標登録を受けることができます(先願主義)。

 余談ですが、正常な審査であれば、先の日の出願を登録し、それから後の日の出願を「他人の登録商標と商標・用途が同一・類似」として拒絶しますので、先願主義の出番はありません。しかし、何かの間違いで後の日の出願が先に登録されてしまった場合に、後の日の出願による商標登録を先願主義に反していることを理由に無効とすることができるのです。

 なお、令和5年の法改正によりコンセント制度が導入されました。これに伴い、後の日の出願であっても、先の出願人の承諾を得ていて、かつ、両者が登録された場合に出所の混同が生じないことを条件に有効に存続することができます。

指定商品・指定役務

 商標出願の際には、商標登録を受けようとする商品・役務(サービス)を指定する必要があります。この部分は、事業の将来の方向性なども鑑みて、必要かつ十分な広がりと粒度で用途を言語化することが求められます。使用予定のない用途を記載しても審査の課程で障害となったり不使用取り消しのリスクがあります。他方、使用したい用途が漏れていては権利として片手落ちです。

 とはいえ、商標の場合は、特許に比べるとやり直しがききやすいので、あまり神経質にならずに考えてよいと思います。

使用を条件」とは

 「使用を条件」とは、指定商品・指定役務での商標の使用が商標登録の前提として求められる、ということです。

 何を以て使用とするかは、前述のとおり、商標法第2条第3項各号に定義されています。

 どの時点での使用が求められるか、に関しては弾力があり、使用していない用途であっても使用意思があれば商標登録を受けることができます。ただし、使用の有無または使用の意思に合理的な疑義がある場合は、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」(商標法第3条第1項柱書)でないと判断されるので、その用途について商標登録を断念するか、使用していることまたは使用の意思を証明することになります。

 また、登録商標を継続して三年以上使用していないと、取消審判により商標登録を取り消されてしまうリスクがあります(商標法第50条)。

「独占」とは

 「独占」とは、登録商標のパクリ(法的には「侵害」といいます)に対して法的な対抗措置が認められる、ということです。なお、この項は特許とほぼ同様なので読み飛ばしてもらっても構いません。

 現在進行形及び将来の侵害に対しては、差止請求(商標法第36条、第37条)をすることができます。
具体的には、現在進行形で侵害(例えば、登録商標と同一・類似の商標を付した商品等の製造販売や登録商標と同一・類似の商標を付した物を用いたサービスの提供)をしていればそれをやめさせたり、将来侵害しそうなことを立証できれば予防を求めることができます。加えて、既に製造した侵害品やその製造設備を捨てさせることなどもできます。

 過去にしてきた侵害に対しては、金銭的補償を求めることができます。例えば、損害賠償請求(民法第709条)です。
損害賠償請求については、損害額の推定規定(商標法第38条)や過失の推定規定(商標法第39条で準用する特許法第103条)があり、通常の民事事件の損害賠償請求に比べて立証負担が軽減されます。
損害賠償請求権が時効により消滅した場合には不当利得返還請求(民法第703条、第704条)を選択することも可能です。

 その他、侵害により業務上の信頼が害された場合には信用回復措置請求(商標法第39条で準用する特許法第106条)を求めたり、故意の侵害の場合には刑事責任(商標法第78条、第78条の2)を追及することが可能です。

 誰に対して対抗措置を採るかは、商標権者の自由です。商標権を他者に使わせてあげて、その代わりにライセンス料を得ることもできるのです。

注意点

 商標権の効力については、他の知的財産権との比較上、以下の点に注意が必要です。

 第1に、商標権には、専用権と禁止権という概念があり、専用権の範囲では自己の使用に加えて他者の使用の排除が認められますが、禁止権の範囲では他者の使用の排除のみが認められることです。専用権の範囲には、登録商標を指定商品・役務と同一の用途に使用することのみが含まれます。一方、禁止権の範囲には、登録商標と類似の商標を指定商品・役務と同一の用途に使用すること、登録商標と同一・類似の商標を指定商品・役務と類似の用途に使用することが含まれます。

 自己の商標権の禁止権の範囲内であったとしても、他者の商標権の禁止権の範囲内でもある使用行為は、他者の商標権の侵害と判断されて排除の対象となります。また、自己の商標権の禁止権の範囲内で、商品・役務の質の誤認や出所の混同を生じさせるような使用をした場合には、取消審判により商標登録を取り消されてしまうリスクすらあります(商標法第51条)。

 第2に、ライセンシーが、商品・役務の質の誤認や出所の混同を生じさせるような使用をした場合には、取消審判により商標登録を取り消されてしまうリスクがあります(商標法第53条)。

 第3に、他者の知的財産権との関係で自らの商標権が制限されること(商標法第29条)や、商標権の効力が及ばない範囲(商標法第26条)が存在します。このあたりはユーザとしても是非押さえておいて欲しいのですが、解説が長くなるので別に記事を書こうと思います。

「無期限」とは

 「無期限」とは、商標権の存続期間(有効期間)が何度でも延長可能ということです。

 商標権は、他の知的財産権とは異なり、更新登録が認められています(商標法第20条)。つまり、登録料を定期的に支払えば、取消審判や無効審判により消滅させられない限り、永続的に権利を保有しておくことができます。

 いつまでも存続できるからこそ、商標権はブランドを構築する土台として適任なのです。

まとめ

  • 商標制度とは、ざっくりいうと、「自他の識別が可能であって、かつ他者商標等との関係で問題がない商標最も早く出願した人に、その商標の使用を条件無期限独占させてあげます」というもの
  • 商標権はブランド(顧客吸引力)を構築するための土台であり、登録商標の使用により蓄積されたブランドこそが商標権の価値の本質
  • 商標には、商品に使用する標章と、役務(サービス)に使用する標章とがある。
    • 標章は、ブランド名やブランドロゴなど、一般的にイメージされるであろう商標の本体であり、商標というのは、標章単体ではなく、標章とその用途とのセット
  •  「自他の識別が可能」とは、商品やサービスの出所を区別できるということ
  •  「他者商標等との関係で問題がない」とは、公益性に反せず、かつ他人の権利等を害しない、ということ
  •  「最も早く出願」とは、商標登録を受けようとする標章や用途(商品・サービス)等を記載した出願を他の誰よりも早く行う、ということ
  •  「使用を条件」とは、指定商品・指定役務での商標の使用が商標登録の前提として求められる、ということです。
  • 「独占」とは、登録商標のパクリ(法的には「侵害」といいます)に対して法的な対抗措置が認められる、ということ
  • 「無期限」とは、商標権の存続期間(有効期間)が何度でも延長可能ということ

参考資料

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