超基礎講座 意匠とは
超基礎講座シリーズでは、知的財産権制度を殆ど知らない人向けに私なりの言葉で要点を解説します。
なお、ユーザの理解を重視する趣旨からざっくりとした説明となりがちです。その分、正確性や細部が犠牲になっている側面が多分にありますので、本記事を踏み台にして適宜他の教材で補っていただければと思います。
意匠制度の趣旨
意匠制度とは、ざっくりいうと、「優れた意匠を最も早く出願した人に一定期間独占させてあげます」というものです。
要するに、意匠制度って、優れたデザインを他者のパクリから一定期間保護することで、創作のモチベーションを高めて産業を発展させよう、っていう思想なのです。
「意匠」とは?
意匠とは、以下のいずれかであって、視覚を通じて美感をを起こさせるもの、として法律で定義されています(意匠法第2条第1項)。
- 物品の形状等
- 建築物の形状等
- 画像
なお、形状等とは、形状、模倣若しくは色彩又はこれらの結合、とされています。また、画像とは、機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限られます。意匠の定義に含まれる画像の例を以下に示します。
まあ、要するに、意匠とは、「物(建築物を含む)の視覚的デザイン」、「機器の操作画像や表示画像の視覚的デザイン」くらいの捉え方をしておけばいいでしょう。
以上が意匠の説明ですが、意匠登録を受けるためには、意匠であるだけでは足りず、工業上利用できる意匠であること(意匠法第3条第1項柱書)や、意匠登録を受けることができない意匠に該当しないこと(意匠法第5条)も要求されます。しかし、ユーザ的にはここらへんはあまり気にせず、上述の意匠の捉え方であ「物(建築物を含む)の視覚的デザイン」、「機器の操作画像や表示画像の視覚的デザイン」に該当するなら、気軽に弁理士などの専門家に相談してみるくらいの姿勢でいいと思います。
「優れた」とは?
「優れた」とは、既知の意匠との比較で優れている、ということです。
例えば、既知の意匠と同一・類似の意匠を出願(申請という用語の方が普及していますが、法的には出願といいます)したとしても新規性(意匠法第3条第1項)のない意匠として意匠登録を受けることができません。
また、既知の意匠と同一・類似ではないが、既知の形状等や画像に基づいて容易に創作できるような意匠を出願したとしても創作非容易性(意匠法第3条第2項)のない意匠として意匠登録を受けることができません。
なお、創作非容易性のハードルは、特許の進歩性と似た部分があり、専門家でも判断が難しいところです。それゆえに、創作非容易性違反の判断がなされた場合に、それをいかにして覆すかは担当する弁理士間のスキル差が大きい領域の1つといえます。
なお、出願前に意匠調査を行うかどうかについては、特許の先行技術調査とはやや見方が異なると思います。意匠の場合、特許と比べると、開示内容やどこを権利請求するかなどの戦術選択の幅が狭いですし、関連意匠をたくさん出願する等でなければ手続き費用も安く済むため、出願要否や出願内容(どこを部分意匠とするか等)の判断材料として用いる目的であれば、意匠調査のコストパフォーマンスはあまり高くないと思われます。一方、実際に製品等形状として使用予定の予定の意匠について出願を検討する場合には、侵害予防の目的からも意匠調査を行う意義は高まるでしょう。意匠調査せずに出願して、製品リリース直前に他者の登録意匠が判明するなどすれば致命的です。
「最も早く出願」とは?
「最も早く出願」とは、登録を受けようとする意匠の図面、物品の説明等を適切に開示する出願を他の誰よりも早く行う、ということです。
出願から意匠登録による公開(意匠公報発行)までの間には時間的ギャップがあるため、ある意匠について新規性・創作非容易性が失われていない間に同じ(優れた)意匠について登録を受けようとする複数の出願がなされることがあります。この場合、同じ意匠に重複して意匠権が成立するのを防ぐために、最も早い日に出願した1件にのみ意匠権が付与されます。これを先願主義(意匠法第9条)といいます。
先願主義とは趣旨(重複意匠権の防止)は違いますが、類似の規定として意匠法第3条の2があります。意匠法第3条の2の規定によれば、出願時点では世の中に知られていない意匠dについて登録を受けようとする出願Xをしたとしても、それよりも早くその意匠dと同一・類似の意匠d’を一部として含む意匠Dについて登録を受けようとする他の出願Yが他者によりなされていてこの出願Yが後に登録され意匠公報を発行された場合には、出願Xではその意匠dについて登録を受けることができません。例えば、意匠dがカメラのレンズの形状等であり、意匠Dがカメラの形状等である、といったケースがこれに該当します。
「独占」とは?
「独占」とは、意匠権が設定された意匠のパクリ(法的には「侵害」といいます)に対して法的な対抗措置が認められる、ということです。
なお、この項は特許と概ね同様なので読み飛ばしてもらっても構いませんが、意匠権の効力は、登録意匠と同一の意匠に限られず、類似の意匠に対しても及ぶ(意匠法第23条)、という点は押さえておきましょう。
現在進行形及び将来の侵害に対しては、差止請求(意匠法第37条、第38条)をすることができます。
具体的には、現在進行形で侵害(例えば、模倣品の製造販売)をしていればそれをやめさせたり、将来侵害しそうなことを立証できれば予防を求めることができます。加えて、既に製造した模倣品やその製造設備を捨てさせることなどもできます。
ただし、秘密意匠制度(意匠法第14条)を利用している場合は、差止請求の前に、所定の書面を提示した警告をすることが求められます(意匠法第37条3項)。秘密意匠制度とは、登録の日から最大三年間、登録意匠の内容を公開しないよう請求できる、というものです。ここでは説明を省略しますが、意匠登録から製品等リリースまでに時間的ギャップがある場合に有用です。
過去にしてきた侵害に対しては、金銭的補償を求めることができます。例えば、損害賠償請求(民法第709条)です。
損害賠償請求については、損害額の推定規定(意匠法第39条)や過失の推定規定(意匠法第40条)があり、通常の民事事件の損害賠償請求に比べて立証負担が軽減されます。ただし、秘密意匠制度(意匠法第14条)を利用している場合は、過失の推定規定が適用されません。
損害賠償請求権が時効により消滅した場合には不当利得返還請求(民法第703条、第704条)を選択することも可能です。
その他、侵害により業務上の信頼が害された場合には信用回復措置請求(意匠法第41条で準用する特許法第106条)を求めたり、故意の侵害の場合には刑事責任(意匠法第69条、第69条の2)を追及することが可能です。
誰に対して対抗措置を採るかは、意匠権者の自由です。意匠権を他者に使わせてあげて、その代わりにライセンス料を得ることもできるのです。
ただし、他者の知的財産権との関係で自らの意匠権が制限されること(意匠法第26条)や、意匠権の効力が及ばない範囲(意匠法第36条で準用する特許法第69条)が存在します。このあたりはユーザとしても是非押さえておいて欲しいのですが、解説が長くなるので別に記事を書こうと思います。
「一定期間」とは?
「一定期間」とは、原則的には、意匠登録出願から25年間です(意匠法第21条第1項)。特許よりも存続期間が長いので、技術的な工夫であるが視覚的デザインともいえる要素については、特許権と意匠権をミックスすることで多面的な保護を図るとよいでしょう。
また、関連意匠の意匠権の存続期間については、基礎意匠の意匠登録出願の日を基準に計算されます。関連意匠制度(意匠法第10条)とは、出願人が同じであることを条件として、類似する複数の意匠について登録を受けることができる、というものです。ここでは説明を省略しますが、デザインにバリエーションがある場合や、デザインをアップデートする場合に有用です。
一方、意匠権がこの25年間を待たずに消滅するケースがあります。
例えば、意匠権の維持には年金支払いが必要なため、これを怠れば意匠権は消滅します(意匠法第44条第4項)。
また、無効審判の請求が認められると、意匠権は消滅します(意匠法第49条)。無効審判では、典型的には、登録意匠の新規性や創作非容易性を否定する新証拠が提出され、登録に値する意匠であったかが改めて問われることになります。
他にもいくつか消滅するケースはありますが、まずは上記のケースを押さえていればよいでしょう。
まとめ
- 意匠制度とは、ざっくりいうと、「優れた意匠を最も早く出願した人に一定期間独占させてあげます」というもの
- 意匠は、きちっとした定義はあるけど、「物(建築物を含む)の視覚的デザイン」、「機器の操作画像や表示画像の視覚的デザイン」くらいの捉え方でよい。
- 「優れた」とは、既知の意匠との比較で優れている、ということ
- 「最も早く出願」とは、登録を受けようとする意匠の図面、物品の説明等を適切に開示する出願を他の誰よりも早く行う、ということ
- 「独占」とは、意匠権が設定された意匠のパクリ(法的には「侵害」といいます)に対して法的な対抗措置が認められる、ということ
- 「一定期間」とは、原則的には、意匠登録出願から25年間