ヤマダイのビジネスモデルや知財を分析してみた
ヤマダイ株式会社(以下、「ヤマダイ」)は、2025年4月17日放送のテレビ東京のカンブリア宮殿で取り上げられました。本記事では、番組の内容に加え、各種の公開情報に基づいてヤマダイについて私なりの考察をしました。
結論として、 ヤマダイのビジネスモデルのポイントは、カップ麺でありながら高品質な麺を提供できる技術と、これまでにご当地ラーメンの再現商品を手がけることで培った信用・ネットワークだと思われます。ヤマダイは、ノンフライ麺の製造方法の特許権を保有しており、これが現在も使用されているものと思われますが、7年後には特許の有効期限が切れてしまうので何らかの対策が必要となります。また、ヤマダイは、動物性食材不使用の「VEGAN NOODLES」にも挑戦しており、道のりは険しいでしょうがポテンシャルを秘めていそうです。
会社概要
ヤマダイは、「ニュータッチ」や「凄麺」等のブランドでカップ麺を製造販売する茨城県の会社です。
ヤマダイの歴史は、1948年に現社長である大久保慶一氏の父がうどん製麺所を開いたことから始まります。日清のカップヌードルが発売された翌年の1972年に、ヤマダイは「ニュータッチ」のカップ麺を発売しました。しかし、大手企業も徐々にカップ麺市場に参入し始め、競争が激しくなります。大手の商品に体して何らかの差別化しなければ自社にとって不利な価格競争から抜け出せません。大久保氏は、独自商品の必要性を痛感し、広告宣伝費を削り商品開発に投資します。そして、社長就任から2年後の2001年に、凄麺シリーズの最初の製品を発売しました。
ヤマダイの経営理念は、「真摯な姿勢で価値を創造し社会に貢献する」です。
業界
ヤマダイは、即席麺業界に属します。当業界では、日清食品を筆頭に、東洋水産(マルちゃん)、サッポロ一番のサンヨー食品が三大大手として存在感を示しています。ちなみに、日清食品は、チャルメラの明星食品を子会社化しており、サンヨー食品は、エースコックや、棒ラーメンのマルタイに出資しています。一方のヤマダイはというと、ペヤングのまるか食品や、寿がきや食品、シマダヤ、テーブルマーク、ヒガシマルなどとともに中堅企業として分類されています(日本経済新聞社「日経業界地図2025年版」)。
ヤマダイの売上は117億円である一方、上記の三大大手の売上は2000億円弱から7000億円強ですので、規模の差は大きいです。同様の製品を作っていては、コスト競争ではまず勝てないでしょうから、集中戦略・差別化戦略を採るという戦い方は適切と思われます。また、ヤマダイの規模は、売上的にはマルタイ(89億円)に近く、大手が買収を狙っている可能性も十分あるのでしょうが、ヤマダイは非上場のため、買収されることは当面はないでしょう。
ビジネスモデル
ヤマダイのビジネスモデルを以下のビジネスモデルキャンバスにまとめました。
ポイントは、カップ麺でありながら高品質な麺を提供できる技術と、これまでにご当地ラーメンの再現商品を手がけることで培った信用・ネットワークだと思われます。
ノンフライ麺の製造時、通常は蒸すところをヤマダイでは茹でています。茹でることで食感は向上するものの、水分を大量に含むようになるため、その後の乾燥の工程で何らかの工夫が必要となります。番組では、ここらへんは企業秘密ですとして流されていましたが、特許の項で説明するように、特許情報からその一端が垣間見えるかもしれません。
ヤマダイは、これまで多くのご当地ラーメンを手がけてきております。しかも、単発の新商品としては終わらせず、同じ商品を現地のラーメン店主らに試食してもらい何度もリニューアルしているそうです。この取り組みは、商品寿命を延ばして開発コストの回収を図る意味もあると思いますが、再現度を向上させることで、ご当地ラーメンの商品化を新たに依頼しようとしている人たちからの期待値を高め選んでもらいやすくなる、という効果もあるのでしょう。
知財
ヤマダイの知的財産の保有状況について順を追って説明します。
なお、知財について超ざっくりな解説が欲しい方はこちらへ
特許
1件の特許登録(特許6085115)を確認することができました。発明の名称は、「ノンフライ食品の製造方法」ということで、ヤマダイのコア技術に関わりそうです。
内容をざっくりというと、茹で麺等のα化調整物を乾燥させる前に、独自の凍結工程を実施する、というものです。ちなみに、凍結してから乾燥するという技術自体は平成初期には知られていたらしいので、凍結工程での工夫が本特許の特徴であろうと推察されます。
ヤマダイが、現在、この特許のとおりに麺を製造しているかは不明ですが、2024年12月の時点で年金の支払いをしていることから、自社で使用しているか、他社に使用させたくないか、いずれにしても価値のある特許と判断していると思われます。
本特許は、2012年の出願であることから、権利の存続期間は最長でもあと7年ほどです。特許の有効期限切れにより他社が同様の製法を使用するおそれがあります。ヤマダイとしては例えば以下の対策を採っているか、これから採ることが考えられます。
- 製法の一部を特許化したが残部を秘匿化している
- 本製法の改良ないし代替技術を開発し、それについて特許化ないし秘匿化する/している
商標
80件の商標登録を確認することができました。
直近の商標活動について特に気になった点はありませんでした。一方、少し前にはなりますが、2020年に、「PLANT RAMEN」(登録6380336)や、「VEGAN NOODLES」のロゴ(登録6349938)が出願されており、気になったので調べてみたところ、既に、動物性食材・アルコール不使用のカップ麺、「VEGAN NOODLES」として商品化されていました(https://www.newtouch.co.jp/recipe/vegan/)。特殊なケースを除いて、ラーメンに動物性食材はマストでしょうから、かなり挑戦的な取り組みと見受けられますが、逆に言えば競合としても参入しづらいので、ご当地ラーメンとともに収益の柱となるポテンシャルを秘めていそうです。
意匠
調査時点で有効な登録意匠を確認することはできませんでした。
あくまで妄想ですが、カップの形状が変われば熱の流れも変わるので、麺の仕上がりにも影響しそうです。最適なカップ形状を設計し、登録意匠とするのも結構強力なのではないかと思いました。
知財まとめ
まとめると、ヤマダイは、ノンフライ麺の製造方法の特許権を保有しており、これが現在も使用されているものと思われますが、7年後には特許の有効期限が切れてしまうので何らかの対策が必要となります。また、ヤマダイは、動物性食材不使用の「VEGAN NOODLES」にも挑戦しており、道のりは険しいでしょうがポテンシャルを秘めていそうです。
まとめ
ヤマダイのビジネスモデルのポイントは、カップ麺でありながら高品質な麺を提供できる技術と、これまでにご当地ラーメンの再現商品を手がけることで培った信用・ネットワークだと思われます。
ヤマダイは、ノンフライ麺の製造方法の特許権を保有しており、これが現在も使用されているものと思われますが、7年後には特許の有効期限が切れてしまうので何らかの対策が必要となります。また、ヤマダイは、動物性食材不使用の「VEGAN NOODLES」にも挑戦しており、道のりは険しいでしょうがポテンシャルを秘めていそうです。
参考資料
- ヤマダイのWebサイト
- カンブリア宮殿(2025年4月17日放送分)
- 東洋経済新報社「会社四季報業界地図2025年版」
- 日本経済新聞社「日経業界地図2025年版」