「株式会社NejiLaw」(ネジロウ)のビジネスモデルや知財を分析してみた
株式会社NejiLaw(以下、「ネジロウ」)について分析をしました。
ネジロウは、2024年3月7日放送のテレビ東京の番組「カンブリア宮殿」で取り上げられました。
本記事では、番組の内容に加え、各種の公開情報に基づいてネジロウについて私なりの考察をしました。
会社概要
ネジロウは、主に、「L/Rネジ」に代表される独自の高機能締結部材を製造販売する会社です。
ネジロウは、現社長の道脇裕氏が2009年に創業しました。
L/Rネジは、従来のねじと全く異なる原理で緩みを防止し、数々の賞を総なめにしました。
以下に、ネジロウのCompany Missionの主要部分を抜粋します。
より豊かでより高度な安心と安全の社会、発展的で持続可能な社会の建設に寄与するべく、 我々は自然の摂理に根ざし、科学と技術に基づき、 問題解決型の発明を以て世の中の未解決問題の解決を図り、 新価値創造型発明を以て未だ見ぬ新たな価値を世の中にもたらし続けることを使命としています。 |
業界
ネジロウは、金属製品製造業に属すると思われますが、会社四季報業界地図2025年版及び日経業界地図2025年版には記載がありませんでした。
従業員数や売上高などの情報も特に公開されておらず、業界内の位置づけは不明です。
ビジネスモデル
ネジロウのビジネスモデルを以下の図にまとめました。
なお、smartNejiはネジロウの登録商標です。
ポイントは、何と言っても社長の並外れた問題解決発想力ということになろうかと思われます。
番組中では、社長が、8000件もの特許文献を読み込んで情報収集をしていたり、ホワイトボード化されたオフィスの壁面が数式でびっちり埋め尽くされていたりと、超人的なインプット・アウトプットをされている様子が垣間見えました。
そんな社長の知的アウトプットの多くは、知的財産権という形でちゃんと資産化されています(詳細は後述)。
社長の発想力そのものは人的資産の極致であり、残念ながら組織資産への転換はおよそ不可能でしょう。
一方で、製品が新しすぎるが故の課題として、実績がないため採用されづらい、という課題があります。
また、最終製品の用途によっては、ねじのような基本部品にそこまでコストを掛けられないといった懐事情もあるのでしょう。
まさに、ジェフリー・ムーアの唱えた「キャズム」に差し掛かっているのではないでしょうか。
これをどうやって乗り越えるが正念場といえそうです。
きっと水面下では様々な手段を講じられていることと思われます。
潜在顧客と製品を共同開発すれば採用実績は得られそうですが、開発成果の展開を共同開発相手が難色を示すなどの別のハードルが生じる懸念もあります。
標準化を利用して普及を目指すという方向性もありそうです。
と思ったら、Wikipediaに「従来のねじ規格に相当するL/Rネジの規格体系「N規格」を広めることも目指す。」なんて記述もありました。
進捗が気になるところです。
知財
ネジロウの知的財産の保有状況について順を追って説明します。
特許
特許については、調査時点で有効なものとして、77件の特許権と13件の特許出願がありました。
件数が多いため、主に特許分類(筆頭FI)に基づくマクロ分析をしました。
なお、特許分析の常ですが、直近約2年分に出願された特許の情報は基本的に取れませんので、2023~2024年のデータについては実態よりも少ない数値となっている可能性が高い点にご注意下さい。
また、特許件数は、特許権件数及び特許出願件数の合計です。
コア技術というべきネジ構造に関する特許が全分野の44%(40件)を占めています。
また、時期的に変動はあるものの、2020~2022年に掛けて増加傾向にあり、新規な構造のネタはまだまだありそうです。
一方、ネジ製造に関する特許は、初期にある程度のボリュームが見られたものの、2017年以降は姿を消しています。
秘匿化を選択した方がよいと判断されたのか、それとも製造技術の側面での進化は頭打ちということなのかもしれません。
後者だとすれば、以降のネジ構造に関する特許は、それ以前のネジ構造の改良や応用にあたるものが多いのかもしれません。
ここらへんは個別に特許文献を読み込んでいけば分かりそうですが、本記事ではそこまで踏み込みませんでした。
ネジ構造以外に目立つ分野として、IoT系に関する特許が全分野の20%(18件)を占めています。
この分野の特許の多くは、smartNejiなどのIoT部品事業に関するものと推察されます。
ネジロウは、自社Webサイトにおいて、smartNejiの適用先として橋梁、工場、自動車、建機など様々な例を挙げていますが、中でも「人口減少社会で効率的な社会インフラ維持管理を実現する」と言及されていることから、国土強靭化のソリューションとしての文脈を特に強く意識されているものと思われます。
そう考えると、建設系やコンクリ系の分野の特許にも国土強靭化のソリューションとして想定されているものが少なからずありそうです。
ということで、分野を少しマージした結果を示します。
かなり雑ではありますが、2016年頃から、国土強靭化という国の方針を見据えて、IoTや建設関連の発明創出を加速させ、コンスタントに特許を蓄積しているといえそうです。
意匠
意匠については、2件の意匠権がありました。
うち1件は「空気浄化装置」(意匠登録1751766)でした。
こちらは、番組中で紹介されていたDr. Airの製品デザインと思われます。
Dr. Airに関する特許権は発見できなかったので、技術的に高度でリバースエンジニアリングが困難と推測される超高濃度紫外線空間の実現メカニズムは秘匿しつつ、粗悪な模造品が流通するのを防ぐために意匠権については押さえているものと思われます。
ただ、模造品対策のもう1つのツールとなる商標権の方は取得されていないようなので、まったく別の意図があるのかもしれません。
当初、締結部材の形状についてもっとたくさん意匠権を押さえているものと予想していました。
製品の形状が多様であり、意匠権による保護だとコストがかかりすぎるとの判断かもしれません。
商標
商標については、32件の商標権がありました。
興味深い動きとして、2022年6月6日に合計20件もの「SMART」ないし「スマート」関連の商標出願がされております。
この頃に、smartNejiなどのIoT部品事業への本格進出の意思決定がされたのだと推察されます。
知財まとめ
まとめると、ネジロウは、2016年頃から、国土強靭化という国の方針を見据えて、IoTや建設関連の発明創出を加速させ、コンスタントに特許出願と権利化を進めており、2022年頃にはIoT部品事業への本格進出の意思決定をしたということがいえそうです。
ネジロウは、国土強靭化という大きな流れの中でIoT部品や建設特化の締結部材製品について高速道路などのインフラに対する採用実績を獲得し、それから建築物、輸送機器、各種機械等の広範な産業用途への進出を果たす、というストーリーを描いているのかもしれません。
まとめ
ネジロウのビジネスモデルのポイントは、社長の並外れた問題解決発想力にありそう。
一方で、製品の革新性と裏腹に普及に課題がある。
ネジロウは、将来的に、国土強靭化という大きな流れの中でIoT部品や建設特化の締結部材製品について高速道路などのインフラに対する採用実績を獲得し、それから建築物、輸送機器、各種機械等の広範な産業用途への進出を目指しているのではないだろうか。