yutoriのビジネスモデルや知財を分析してみた

 株式会社yutori(以下、「yutori」)は、2025年4月3日放送のテレビ東京のカンブリア宮殿で取り上げられました。本記事では、番組の内容に加え、各種の公開情報に基づいてyutoriについて私なりの考察をしました。

 結論として、yutoriのビジネスモデルのポイントは、多様性に富んだファッションブランドを擁することと、アパレル未経験の若い人材層が厚い点と思われます。また、yuoriは、自社ブランドの立ち上げだけでなく、F-LAGSTUF-Fなどの外部ブランドの調達やGDCなどの往年の有名ブランドのリバイバルにも取り組むことで、「若者帝国」の実現に向けブランド拡充を加速しようとしているように思われます。

会社概要

 yutoriは、「9090」、「PAMM」、「F-LAGSTUF-F」などの30以上のブランドを抱えるアパレル企業です。ちなみに、yutoriのグループ企業である株式会社heart relationは、元AKB48の小嶋陽菜氏がプロデュースする「Her lip to BEAUTY」というブランドを展開しています。

 yutoriは、2018年に現社長の片石貴展氏が創業しました。2023年には東京グロース市場に上場しています。

 片石氏は、yutoriのビジョンは「若者帝国」である、と番組中で語っています。よりイメージしやすい姿として、現在の2倍強となる70ブランドぐらい(国内一位のブランド数)を目指しているようです。

業界

 yutoriは、アパレル業界に属します。会社四季報業界地図2025年版及び日経業界地図2025年版には記載がありませんでした。アパレル業界には、インディテックス(ZARA等)、ファーストリテイリング(ユニクロ等)、へネス&マウリッツ(H&M等)といった売上高数兆円を誇る超大型SPA(製造小売り)や、ユナイテッドアローズやビームスといった売上高1000億円前後のセレクトショップなど様々なプレイヤーが存在します。yutoriは、今期売上高80億円予想である一方、擁するブランド数は30以上ということから、ニッチなブランドを多数抱えているということになるかと思われます。

ビジネスモデル

 yutoriのビジネスモデルを以下のビジネスモデルキャンバスにまとめました。

 ポイントは、多様性に富んだファッションブランドを擁することと、アパレル未経験の若い人材層が厚い点と思われます。

 マス層向けのSPAやセレクトショップでは満足できていない多種多様な顧客層により適合したファッションを提案することがyutoriのビジネスの基本形と思われます。番組によれば、yutoriは既に30以上のブランドを抱えており、今後70程度まで拡張させることを狙っています。今後、自社ブランド同士の顧客の食い合い(カニバリゼーション)の阻止や、適切なボリュームのターゲット層をどうやって探索するか、というあたりが課題となるのではないでしょうか。yutoriは、Yリーグと呼ぶ独自のブランド管理制度を採用しています。Yリーグは、ブランドを月間平均売上高によって5段階に区分し、立ち上げ後1年以内に最低ランク(700万円未満)を脱していないブランドは撤退させる、というものだそうです。これにより、撤退や投資などのブランド管理が裁量ではなく客観的な基準で行われますが、ブランド数が増えてくるとブランド間の相互作用も相応に大きくなると思われるので、さらなる管理の工夫が求められそうです。

 yutoriは、「アパレル未経験の」「若い」人材層が厚いため、これまでのファッションブランドが提供できていなかった価値(例えば、ホームウェアブランドであるPAMMなど)を生み出すことが得意なように思われます。一方で、これらの社員たちも、数年後には「アパレル経験のある」「若くない」人材層になってしまい、新しい発想を生み出すことは難しくなるかもしれません。ブランドを生み出し続けるためにも、若い人材を継続的に採用することや、外国人などの多様な人材を獲得することが重要となりそうです。

知財

 yutoriの知的財産の保有状況について順を追って説明します。
なお、知財について超ざっくりな解説が欲しい方はこちら

商標

 yutoriが43件の商標登録と8件の商標出願を行っていることを確認しました。

 ブランド数が多いわりに商標の登録や出願件数の規模はあまり多くないという印象です。ブランドを商標でどれくらいカバーできているのかは、大変なので計算していません(興味のある方は、有価証券報告書に主要ブランド一覧が掲載されているのでチャレンジしてみてください)。推測となりますが、ある程度ブランドが立ち上がるまで(例えば、Yリーグでいう立ち上げ期(月間平均売上高700万円未満)の間)は、商標出願を原則しない、といった基準があるのかもしれません。

 yutoriの商標一覧を眺めていると、わりと古い登録商標を保有していることに気づきます。具体的には、yutoriの創業は2018年ですが、出願日が創業以前である登録商標が10件見つかりました。実は、yutoriは、2022年に、事業譲受や吸収合併により外部ブランドを調達しています。具体的には、株式会社KANDORからファッションブランド「F-LAGSTUF-F」を取得し、「Younger Song」等の複数のブランドを展開していた株式会社A.Z.Rを完全子会社化→吸収合併しています。この過程でこれらの商標を取得したのでしょう。

 ちなみに、F-LAGSTUF-Fについては、有価証券報告書で「F-LAGSTUF-Fブランドにおいて当初想定していた収益が見込めなくなったことから、事業譲受時に発生したのれんについて、その帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上しております」と説明されており、想定以上に苦戦しているようです。自社立ち上げでないが故の課題があるのかもしれません。

 外部調達した商標のうちボリューム的に目立つのは「GDC」関連で計6件が存在します。GDCといえば、熊谷隆志氏が1998年~2003年に手がけた、当時を代表するファッションブランドです。yutoriは、2024年10月にGDC関連の登録商標を譲り受けるとともに、自社名義でも2件の商標出願を行っています(商願2024-090164、商願2024-090165)。 2025年2月には、熊谷氏とGDCの再始動に関するプレスリリースを発表するなど、yutoriがGDCの再ブランディングに本格的に取り組んでいることがうかがえます。往年の有名ブランドをうまく活用できれば、9090ブランドのターゲットである、90~20年代のリバイバルファッションを好む若年層だけでなく、当時若者であった層(GDCでいえば、現在40~50歳台くらいの層)も取り込めそうです。

特許及び意匠

 yutoriが保有する特許及び意匠を確認することはできませんでした。

 特許はともかく、意匠についてはアパレルとの親和性が高そうであるものの、大ヒットかつ定番化が見込まれる商品でもない限り、費用対効果として見合わないという判断なのだと思われます。アパレル業界の巨人であるファーストリテイリングですら、衣類に関しては下着やスカートについて僅かな登録意匠を保有するのみです。ちなみに、同社は、店舗の内装や建物の意匠について複数の意匠登録をしている点が興味深いです。

知財まとめ

 まとめると、yutoriは、自社ブランドの立ち上げだけでなく、F-LAGSTUF-Fなどの外部ブランドの調達やGDCなどの往年の有名ブランドのリバイバルにも取り組むことで、「若者帝国」の実現に向けブランド拡充を加速しようとしているということがいえそうです。

まとめ

 yutoriのビジネスモデルのポイントは、多様性に富んだファッションブランドを擁することと、アパレル未経験の若い人材層が厚い点にありそう。

 yutoriは、自社ブランドの立ち上げだけでなく、F-LAGSTUF-Fなどの外部ブランドの調達やGDCなどの往年の有名ブランドのリバイバルにも取り組むことで、「若者帝国」の実現に向けブランド拡充を加速しようとしているのではないだろうか。

参考資料

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