「株式会社CRISP」のビジネスモデルや知財を分析してみた
株式会社CRISP(以下、「クリスプ」)について分析をしました。クリスプは、2025年2月27日放送のテレビ東京の番組「カンブリア宮殿」で取り上げられました。本記事では、番組の内容に加え、各種の公開情報に基づいてクリスプについて私なりの考察をしました。
会社概要
クリスプは、カスタムサラダレストラン「CRISP SALAD WORKS」を運営する会社です。
クリスプは、2014年7月1日に現CEOの宮野浩史氏が創業しました。
クリスプのミッションは、「熱狂的なファンをつくる。」です。
業界
クリスプは、外食業界に属しますが、会社四季報業界地図2025年版及び日経業界地図2025年版には記載がありませんでした。
店舗数は30店、従業員は540名、売上高は26億円です。2025年には10店舗のオープンを予定されているとのことで、現在急成長中のようです。サラダ専門x外食やデータ経営x外食などの切り口で比較対象を検討しましたが、適切な企業は思い当たりませんでした。
クリスプの面白い取り組みとして、CRISP METRICSというサイト上で売上やKPIが公開されています。これは、クリスプの目指す、新しい外食企業の形「コネクティッド・レストラン」(データドリブンでソフトウェアカンパニーのように経営をする外食企業)に共感する仲間作りの意図があるようです(参考:「資金調達のお知らせと、CRISPが目指すコネクティッド・レストランについて」)
ビジネスモデル
クリスプのビジネスモデルを以下のビジネスモデルキャンバスにまとめました。
ポイントは、何といっても、データを活用した商品開発や従業員管理かと思われます。
クリスプは、モバイルオーダーアプリで顧客毎の注文履歴をリアルタイムに把握することができ、さらに接客した従業員との紐付けもできているようです。この結果、食材単位の売上動向や食材同士の競合関係を分析して新商品で採用する食材を検討したり、従業員の接客がリピートにつながっているかを定量的に分析してインセンティブ等の人事評価を行ったりといった外食業界では先進的と思われる業務活動が可能となっています。さらに、CRISP WORKPLACEのアプリを使えば、アルバイトは、特定の店舗のシフトに縛られず空きのある店舗・時間枠に応募して働けます。これは、オペレーションが徹底的に標準化されているからこそうまく回るのだと思われます。さらに、時給はダイナミックプライシングで決定し、人手不足の問題が殆ど生じていないというからお見事です。
一方で、アプリ開発運用費用は固定費的な側面が強く、店舗数が少ない段階では負担が相対的に大きいと推察されます。このため、店舗数の拡大や、他社への横展開といった、アプリ開発運用費用の負担を薄める課題解決が求められます。
デリバリーサービスについては、商標の項で説明します。
知財
クリスプの知的財産の保有状況について順を追って説明します。
なお、知財について超ざっくりな解説が欲しい方はこちらへ
特許及び意匠
特許及び意匠について、調査時点でクリスプ名義の登録や出願を確認することはできませんでした。
独自アプリを開発提供されているため、特許や画面意匠などの登録があるかもと想像しましたが、分析できず残念です。もしかすると、顧客エンゲージメントによってアンケートのやり方を変えるなどのデータ収集の領域で工夫がありそうな感じはしましたが、アルゴリズムとして秘匿化する方針なのかもしれません。
商標
商標について、11件の商標登録を確認できました。本項では2つの点について述べます。
2系統で出願・登録された商標
まず、興味深い点として、2021年以降、同一商標を同時期に用途(指定商品・指定役務)を2系統に分けて出願している点が挙げられます。
一般論として、同一商標を複数の用途に分けて出願する背景として主に次の2つがあります。
- 過去に出願していた用途ではカバーできない用途について追加で商標登録したい
- 一部の用途について類似商標の存在が出願前に判明し審査が長引きそうなので、すんなり通りそうな用途だけ早期に商標登録したい
しかし、クリスプの場合は、上記のいずれでもありません。まず、どのペアも出願日は同日ないし1日違いですので「1」ではありませんし、いずれの出願も拒絶理由なしですんなり登録になっているため「2」も考えづらいです。
これは私の想像ですが、クリスプは、将来的にアプリ(や収集したデータを用いたコンサルティング)と飲食サービスとを別事業として展開させて「コネクティッド・レストラン」を広めていこうという構想があり、これに備えて商標権を予め承継しやすく整理して成立させているのではないかと思われます。
具体的には、クリスプの登録商標の用途は、以下の2系統に分かれています。
- アプリ系(第9類:「電子計算機用アプリケーションソフトウェア」等、第36類:「前払式支払手段の発行」等、第42類:「電子計算機用プログラムの提供」等)
- 飲食サービス系(第35類:「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」等、第39類:「飲食物の配達」等、第43類:「飲食物の提供」等)
現在のアプリは、「CRISP SALAD WORKS」の受注、顧客データ収集に用いられていますが、将来的に自社が新たに立ち上げる飲食サービスや他社が提供する飲食サービスへ水平展開することができそうです。また、ビジネスモデル的にも、アプリ開発運用の負担を薄める意味でも規模の拡大が求められます。そうすると、アプリ開発提供や収集したデータに基づく飲食コンサルティングが独立した事業として成立することになり、この事業を分社化するということはまあまああり得そうな感じがしますが、実際どうなんでしょう。
商標活動の動向から見た事業の流れ
次に、最近の商標活動の動向からクリスプの事業の流れを追ってみました。直近ですと、「CRISP STATION」、「CRISP REPLENISH」、「CRISP DELIVERY」の商標について出願・登録されています。
「CRISP STATION」は、レジ会計なしでサラダが買える無人店舗です(参考:「サラダを手にとって出ていくだけ、レジ会計は不要。「CRISP STATION」が11月1日(月)オープン」)。残念ながら、食べログによると、唯一と思われる丸ビルの店舗が閉店しているようで、今後の展開は特になさそうです。
「CRISP REPLENISH」は、サラダの定期配送型サブスクリプションサービスです(参考「CRISP SALAD WORKSが、サラダのサブスクリプション「CRISP REPLENISH」を7/14(水)正式ローンチ」)。こちらのサービスの現状は正直なところよくわかりませんでした。ただ、2021~22年頃以降は特にニュースはなく、クリスプのWebサイトでも特に告知等はされていないようで、あまり注力されているようには感じられませんでした。食材の宅配サービスという大きな括りで見れば競合も多く、オフィスと家庭とでは顧客が望む商品も異なりそうですから、事業としては伸び悩んでいるのかもしれません。
「CRISP DELIVERY」は、自社モバイルアプリ「CRISP APP」から商品デリバリーを注文できるサービスです(参考:「CRISP SALAD WORKS が、あらゆる場所で顧客とつながる目的で「CRISP APP」をフルリニューアルし、アプリ内から注文できる自社デリバリーを開始」、「自社デリバリーサービス「CRISP DELIVERY」を再開 福利厚生サービスとしてオフィス向けデリバリーも拡大。」)。本サービスは、2020年10月にローンチ後2022年3月末に一時休止、2024年2月に再開、という変遷を辿っています。旧サービスでは、個人顧客がターゲットでCRISPパートナー(スタッフ)がサラダを配達していました。一方、現サービスでは、個人顧客に加えて会社の福利厚生もターゲットとしており、配達はUber Directに変更されています。健康経営の観点からもサラダという福利厚生プランは企業の人事担当者に刺さりそうですし、コアなファンが勤め先に採用を後押ししてくれるなんて追い風もありそうです。福利厚生として採用されれば、店舗まで足を運んでくれない層にもリーチしやすくなり新規顧客の獲得可能性も高まるでしょう。
知財まとめ
まとめると、クリスプは、商標活動の動向からすると、将来的にアプリ(や収集したデータを用いたコンサルティング)と飲食サービスとを別事業として展開させて「コネクティッド・レストラン」を広めていこうという構想があるのではないかと思われます。また、近年は、無人店舗、サブスク、デリバリーなどの新たな取り組みにも積極的に挑戦しています。特にデリバリーサービスについては企業の福利厚生プランとしての採用を狙ってリニューアルしており、これがうまくいけば新規顧客開拓が期待できます。
まとめ
- クリスプのビジネスモデルのポイントは、何といっても、データを活用した商品開発や従業員管理と思われる。
- クリスプは、将来的にアプリ・コンサルティングと飲食サービスとを別事業として展開することを目指しているのではないだろうか。
- デリバリーサービス「CRISP DELIVERY」が企業の福利厚生プランとして採用されれば新規顧客開拓が期待できそう。