「岡本株式会社」のビジネスモデルや知財を分析してみた

 岡本株式会社(以下、「岡本」)について分析をしました。岡本は、2025年2月13日放送のテレビ東京の番組「カンブリア宮殿」で取り上げられました。本記事では、番組の内容に加え、各種の公開情報に基づいて岡本について私なりの考察をしました。

会社概要

 岡本は、「まるでこたつソックス」に代表される「靴下サプリ」シリーズや、「脱げないココピタ」、「スーパーソックス」などの高機能レッグウェアを製造販売する会社です。

 岡本は、現社長・岡本隆太郎氏の祖父である岡本久太郎氏が1934年に創業しました。靴下のOEMメーカーとして業績を伸ばすも、価格競争の激化や大口取引先からの契約解除などで経営が悪化します。2012年に隆太郎氏は新規事業本部の責任者に抜擢され、自社ブランドの立ち上げに奮闘します。市場投入した様々な商品のうち、ヒットのポテンシャルを感じていたものの売れなかった「三陰交を温めるソックス」をネーミング・パッケージ・説明文などを徹底的に見直して「まるでこたつソックス」として2015年にリニューアルし、大ヒットにつながりました。現在では、自社ブランド事業で会社の半分の利益を稼いでいるということです。

 岡本の経営理念として、以下の図に示すように、ミッション、ビジョン、カルチャーの交点に経営理念、社是が据えられております。

岡本のWebサイトから引用

業界

 岡本は、アパレル業界に属します。靴下製造卸業としては業界首位と番組中では紹介されていましたが、非上場であるためか、会社四季報業界地図2025年版及び日経業界地図2025年版には記載がありませんでした。売上は482億円です。「靴下屋」で知られるタビオの売上は160億円程度であり、売上規模でいえば岡本はその約3倍です。

ビジネスモデル

 岡本のビジネスモデルを以下のビジネスモデルキャンバスにまとめました。なお、今回は番組中で取り上げられた自社ブランド事業を対象とし、OEM事業は対象外とします。

 ポイントは、(1) 顧客の求める価値とマッチした高機能レッグウェアを創造すること、そして(2) 後発企業の追随をいかにして防ぐか、ということにあろうかと思われます。

 (1) 顧客の求める価値とマッチした高機能レッグウェアを創造することについて、次々に高機能レッグウェアを生み出してきた研究開発部門を擁していること、そして研究開発の成果として蓄積された糸、編み方、人体に対する知見などの知的資産やオリジナルの編み機などの有形資産は、いずれも他者が容易には獲得できない大きな強みでしょう。

 また、一般的な靴下に比べて複雑な構造である岡本の製品を、堅実に量産する生産部門もこのビジネスモデルでは重要な存在といえます。長年のOEM事業の経験により、生産オペレーションは相当に磨かれていると推察されます。さらに、独自の社内資格「okamotoレッグニット技術検定」を設けて高い技術水準を定義し、質の高い国際的な工場網を構築しているようです。岡本のWebサイトによれば、「「okamotoレッグニット技術検定」は、岡本独自の社内資格ではありますが、靴下を編むことにおいて「世界一の技術を保持している」ことを証明するための世界一難しい編み技術の検定であると自負」しているそうです。

 しかし、いかに高機能レッグウェアを創造する力があったとしても、番組中で紹介された水中ウォーキング用の滑り止め靴下のような、顧客の求める価値とマッチしない製品にその力を注いでしまっては利益どころか損失を生んでしまいます。高機能の代償として原価や研究開発費の負担は大きいとでしょうから、顧客に刺さらなかった場合のダメージは大きいと思われます。そのため、顧客の求める価値を探索する業務活動(マーケティング)もこのビジネスモデルでは重要な位置を占めていると考えます。もちろん、「三陰交を温めるソックス」を「まるでこたつソックス」としてリニューアルして売れた経験が示すように、価値をどのように伝えるかという側面も大事なのですが、やはりそれ以前に顧客の求める価値を見誤っていれば挽回すらできないので、価値探索の部分の比重がより大きいと考えます。

 (2) 後発企業の追随をいかにして防ぐかについても考慮しなければなりません。マーケティングと研究開発に多額の投資をしてようやく到達したヒット商品のコンセプトを後発企業に容易く模倣されては、価格競争に巻き込まれ利益が圧迫されてしまうからです。先行者としては、後発企業の参入前に顧客基盤を確立しておくこと、後発企業の参入後は後発品の買い換えを防ぐこと、を目指したいところです。後者の解決策の1つは、製品の価値で後発品を圧倒することです。例えば、岡本のオリジナルの編み機や高い生産技術がなければ岡本の製品にはるかに劣る価値しか提供できない、という状況であれば、暫くは有利に戦えそうです。一方、製品に施した工夫を参考にすれば他者でも完璧ではないけれどそこそこの価値を安価に提供することができる、という状況であれば、知財を活用して製品に施した工夫を保護することで他者の追随を防ぐ戦い方が考えられます。岡本が実際に保有する知財の分析については以下の項で述べます。 

知財

 岡本の知的財産の保有状況について順を追って説明します。なお、特許について超ざっくりな解説が欲しい方はこちらへ。商標について超ざっくりな解説が欲しい方はこちらへ。

特許

 特許については、9件の特許出願と51件の特許権を確認できました。なお、実用新案登録についても複数件の実績を確認できましたが、本記事では重要な内容が出願されやすいと思われる特許の方を分析します。

 件数が多いため、主に特許分類(筆頭FI)に基づくマクロ分析をしました。なお、特許分析の常ですが、直近約2年分に出願された特許の情報は基本的に取れませんので、2023年のデータについては実態よりも少ない数値となっている可能性が高い点にご注意下さい。また、特許件数は、特許権件数及び特許出願件数の合計です。

 ざっくりとした傾向として、やはり、靴下類、つまりレッグウェアとしての特徴を主題とした特許が、ボリュームとしては圧倒的に多く、全体の6割強を占めます。

 時系列的に見ると、OEM事業が主体であった2000年代後半~2010年代初頭は、靴下類とメリヤス編成の特許が中心で、靴下類に関しては2012年頃にアイデアが枯れてしまったかのようにも見えます。
 その後、新規事業本部が立ち上がり、「まるでこたつソックス」がヒットするまでの2012~2015年くらいの間は、衣類、繊維、サポーターなどに特許が分散しており、自社ブランドを担う商品を模索していた様子がうかがえます。
 2018年以降は、高機能レッグウェアを主力とする方向性が定まったのか、靴下類に関する特許を集中的に(計24件)出願しております。これらの特許群は、高機能レッグウェアの模倣を防止するための防衛策の一環であろうと推察されます。なお、靴下類の特許出願は、2020年の11件がピークであり、2021年以降は減少傾向にあり、高機能レッグウェアの研究開発は一区切りついたのかもしれません。

 その他の中身として、花王や村田製作所との抗菌に関する共同研究開発の成果と思われる特許権を2件確認できました(特許第7028725特許第7082664)。抗菌機能を謳った商品は現在の岡本の商品ラインナップには見当たらず、今後新商品として展開される可能性はありそうです。抗菌機能があれば防臭効果も期待できるでしょうから、「”24時間におわない“ SUPER SOX」の上位製品として位置づけられるかもしれませんね。

意匠

 意匠については、81件の登録意匠を確認できました。なお、J-PlatPatでは、現状、意匠権が有効かどうかは結果一覧上に表示されず確認に手間がかかるため、この意匠権の総数には年金不能や期間満了により抹消された件も含まれている可能性があります。

 直近の登録意匠10件を以下に示します。

 内訳としては、6件がレッグウェアのデザインに関するものであり、2件がサポーターのデザインに関するもの、1件が包装のデザインに関するもの、1件がネックピローのデザインに関するものでした。

 ひざサポーター、ひじサポーター、ネックピローは、現在の岡本の商品ラインナップには見当たらず、今後新商品として展開される可能性はありそうです。

 ひざサポーターとひじサポーターは、意匠に係る物品の説明欄によると、ともに「ヨガなどの床運動のときに着用し、動作を行いやすくするためのすべり止めを設けた」ものです。

 ネックピローは、意匠に係る物品の説明欄によると、「ボタンによる開閉可能なネックピローであって、生地内側の粒状ビーズ素材の効果により、首周りに巻いて使用する事で、心地よい触感と保温性によるリラックス効果と防寒性を得る事ができる」ものです。

 これらの商品は、既存商品であるレッグウェアと比べると、筒状であるという点では共通するのでレッグウェア事業で得た知見を活かせる部分もありそうですが、レッグウェアに比べれば使用場面ははるかに限られるので、顧客にどのようにして価値を伝えるかの部分も重要となりそうです。

商標

 商標については、408件の商標登録と12件の商標出願を確認できました。

 内訳としては、商品名やパッケージ画像のような基本的なものから、商品コンセプトのキャッチフレーズと思われるものやレッグウェアにつけるワンポイントのデザインと思われるものまで多岐に亘ります。当然といえば当然ですが、9割以上となる408件は、靴下等の被服(第25類)を用途(指定商品)として含んでいます。逆に、第25類を用途としない商標の大半は糸等(第23類)を用途とするものでした。

 特筆すべき点として、3件の位置商標の出願が審査中です。

 なお、位置商標とは、文字や図形等の商標であって、商品等に付す位置が特定される商標です。有名な例として、日清食品のカップヌードルの包装の上方部と下方部に付した図形の組み合わせがあります(登録6034112)。

登録6034112公報より引用

 岡本の位置商標は、「靴下等の足首部分の内側と外側それぞれに付された小判形図形及び靴下等の足首部分の立体的形状からなる」もの(商願2023-140030商願2023-141111)と、「靴下等の足首部分における、上部にリブがあり、足側である下部にリブが無く、かつ前記上部及び下部に挟まれた中間部分が少しくびれた立体的形状からなる」もの(商願2023-6446)とされております。おそらく、「まるでこたつソックス」で現在使用されている商品形状についての出願でしょう。

「まるでこたつソックス」の形状(https://shop.okamotogroup.com/i/MS01より引用)

商願2023-140030公報の図面より引用

 位置商標は、通常の図形の商標に比べれば権利化のハードルが高いのですが、登録となった場合のメリットも大きいです。仮に、これらの位置商標が登録されれば、靴下の全体形状としては類似していなくても、足首部分の立体形状等が類似するような靴下等を後発企業が市場投入してきた場合に、商標権侵害であるとして責任追求しやすくなると考えられます。

 ここまでは一般論であり、ここから先は憶測に過ぎませんので全くの見当違いかもしれないことを先にお断りしておきます。
 「まるでこたつソックス」の特徴の1つは、「三陰交を発熱繊維によってピンポイントに温める」こととされています。同様の構造を採用する場合、三陰交の箇所を覆うように発熱繊維を織り込む都合上、足首部分に小判型にせよ四角型にせよ何らかの模様が生じるのは避けがたそうです。そうすると、これらの位置商標は、「三陰交を発熱繊維によってピンポイントに温める」靴下において、デザインの自由度の幅が限られている領域で権利を確保しようという試みであるとも考えられます。もしこのような試みがうまくいけば、他者が特許権や意匠権の消滅後に同様の構造を持ったジェネリック靴下を市場投入しようとしたとしても採用可能なデザインが限られるため、岡本としては引き続き有利に戦えるのかもしれません。

知財まとめ

 まとめると、岡本は、2018年以降、靴下類に関する特許を集中的に(計24件)出願しており、これらの特許群は、高機能レッグウェアの模倣を防止するための防衛策の一環であろうと推察されますが、2021年以降は出願件数が減少傾向にあり、高機能レッグウェアの研究開発は一区切りついた可能性があります。

 特許出願及び意匠出願の動向から、抗菌機能のレッグウェアや、ひざ・ひじサポーター、ネックピローなどが製品化される可能性がありそうです。

 また、岡本は、「まるでこたつソックス」で現在使用されている商品形状について、3件の位置商標を出願しております。憶測に過ぎませんが、これらの位置商標は、「三陰交を発熱繊維によってピンポイントに温める」靴下において、デザインの自由度の幅が限られている領域で権利を確保し、特許権や意匠権の消滅後にジェネリック靴下を市場投入しようとする競争相手に対して有利に戦おうという意図もあるのかもしれません。

まとめ

  • 岡本のビジネスモデルのポイントは、(1) 顧客の求める価値とマッチした高機能レッグウェアを創造すること、そして(2) 後発企業の追随をいかにして防ぐか、にありそう。
  • 岡本は、2018年以降、靴下類に関する特許を集中的に(計24件)出願しており、これらの特許群は、高機能レッグウェアの模倣を防止するための防衛策の一環であろうと推察されるが、2021年以降は出願件数が減少傾向にあり、高機能レッグウェアの研究開発は一区切りついた可能性がある。
  • 特許出願及び意匠出願の動向から、抗菌機能のレッグウェアや、ひざ・ひじサポーター、ネックピローなどが製品化される可能性がありそう。
  • 岡本は、「まるでこたつソックス」で現在使用されている商品形状について、3件の位置商標を出願している。
    • 憶測に過ぎないが、これらの位置商標は、「三陰交を発熱繊維によってピンポイントに温める」靴下において、デザインの自由度の幅が限られている領域で権利を確保し、特許権や意匠権の消滅後にジェネリック靴下を市場投入しようとする競争相手に対して有利に戦おうという意図もあるのかもしれない。

参考資料

  • 岡本のWebサイト
  • 東洋経済新報社「会社四季報業界地図2025年版」
  • 日本経済新聞社「日経業界地図2025年版」

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