「アズマ工業株式会社」のビジネスモデルや知財を分析してみた
アズマ工業株式会社(以下、「アズマ工業」)について分析をしました。アズマ工業は、2024年4月4日放送のテレビ東京の番組「カンブリア宮殿」で取り上げられました。本記事では、番組の内容に加え、各種の公開情報に基づいてアズマ工業について私なりの考察をしました。
会社概要
アズマ工業は、清掃用品の製造販売のほか、ホームクリーニングサービスや清掃教育事業を営む会社です。
アズマ工業は、1896年に荒物問屋として創業し、メラミンスポンジを日本で初めて掃除用品として売り出したり、新構造のカバーほうきを開発して座敷ほうきのシェア1位を獲得したりするなど、数々のアイデア商品を世に送り出してきました。2000年代には、100円ショップの台頭により業績を落とすも、現社長の山下智樹氏が就任した2012年を境にV字回復を果たしています。
アズマ工業は、以下のミッションを掲げています。
お客様との価値共創を通じて、独自性に富み、
便利で優れた商品を開発提供すると共に、
プロの手と真心によるホームクリーニングサービスを実践します。
業界
アズマ工業は、トイレタリー業界に属すると思われますが、会社四季報業界地図2025年版及び日経業界地図2025年版には記載がありませんでした。非上場ですが、番組によると売上高が64億円、従業員数は166名とのことです。掃除製品の企業というとレックが思い浮かびますが、レックの売上高は607億円ですのでアズマ工業の約10倍です。
ビジネスモデル
アズマ工業のビジネスモデルを以下のビジネスモデルキャンバスにまとめました。

ポイントは、「清掃用品」、「ホームクリーニング」、「おそうじ塾」の3つの事業が互いに好影響を及ぼしあう好循環、つまりシナジーであると思われます。この点については、アズマ工業のWebサイトにあった以下の図にも表れています。

アズマ工業「トップページ」より引用
もう少し補足説明しますと、清掃用品の持つ高い洗浄力がホームクリーニングの品質を支え、反面ではホームクリーニングの現場等で得た顧客の声は重要な知的資産としてデータベース化され、清掃用品の開発に活かされています。また、清掃用品やホームクリーニングの事業で蓄積された清掃ノウハウは、おそうじ塾の教育コンテンツとしても収益を生み出しており、反面ではおそうじ塾の卒業生がホームクリーニング事業を支える人的資源の基盤となっています。
知財
アズマ工業の知的財産の保有状況について順を追って説明します。
なお、特許について超ざっくりな解説が欲しい方はこちらへ
特許
特許については、19件の特許権と4件の特許出願を確認できました。殆どが清掃用品に関するものであり、製品の技術的工夫についてコンスタントに権利化を進められてきことがわかります。
本記事では、これらのうち、出願日が最も新しい(2023年10月13日)、特願2023-177508(特開2024-059097)を取り上げたいと思います。本特許出願は、浴室用履物に関するものであり、調査時点ではアズマ工業の製品ラインナップに該当するカテゴリが見当たりませんでした。このことから、清掃用品とのクロスセルを期待できる新たな製品として上市を狙っているものと推察されます。本特許出願の要約書には、「浴室用履物において、不使用時に、乾燥も兼ねて壁面に簡単に収納することが可能なものを提供する」と記載されており、その課題を解決するための具体的手段(靴底の構造や磁石の配置など)について権利請求がされています。

特願2023-177508(特開2024-059097)より引用
たしかに、床に立てて収納すると場所を取るだけでなく水分が残りやすいですし、かといって都度拭くのも大変でしょう。そのような顧客の生の声に触れ、ここから着想を得たのかもしれません。
意匠
意匠については、16件の意匠登録を確認できました。なお、J-PlatPatでは、現状、意匠権が有効かどうかは結果一覧上に表示されず確認に手間がかかるため、この意匠権の総数には年金不能や期間満了により抹消された件も含まれている可能性があります。

直近の登録意匠2件は、特許の項でも触れた浴室用履物の基礎意匠と関連意匠でした。製品デザインの細部を決めかねている段階で出願されたのかもしれません。意匠に係る物品の説明欄では、「この物品を、磁性体から成る壁面に前記マグネットで吸着させることにより、乾燥も兼ねて該壁面に収納することができるようになっている」と記載されており、前述の特許出願のコンセプトとも整合しています。
他の登録意匠は、殆どが清掃用品関連であり、製品の形状についてコンスタントに権利化を進められてきことがわかります。
商標
商標については、130件の商標登録を確認できました。特許及び意匠の項で触れた浴室用履物に使用するブランド名とおぼしき商標は見当たらなかったことから、製品化はもう少し先なのかもしれません。
他に、新たな事業を匂わせるものは特に見つかりませんでしたが、興味深いところとして、「リモートクリーニング」の商標が登録されていました。
リモートクリーニングは、番組中で紹介されていた、リモート会議ツールを使った掃除法の無料指導サービス(参考:アズマ工業「リモートクリーニング」)です。これは、アズマ工業のオンラインショップで製品を購入した一般家庭の顧客に、その製品を使ったお掃除をリモートで指導し、その様子を動画コンテンツに加工して配信するという取り組みです。

アズマ工業が重視する顧客の「生の声」をまさに製品を使用している場所・タイミングで収集できるだけでなく、製品の使用感や汚れ落ちの効果を真実味をもって伝えられる広告素材も蓄積できます。また、ひょっとすると新たなパンデミックが発生し、ホームクリーニング事業の継続が困難となった場合に、リモートクリーニングで培ったノウハウを活かした収益事業に挑戦するといった構想もされているのかもしれません。
知財まとめ
まとめると、アズマ工業株は、清掃製品についてコンスタントに知的財産権を取得しているが、直近の動きとして、壁面収納できる浴室用履物について特許及び意匠の知財ミックスでの保護を図っている様子がうかがえ、将来的に、この浴室用履物を清掃用品とのクロスセルを期待できる新製品として上市を目指していそうだ、ということがいえそうです。
まとめ
- アズマ工業株のビジネスモデルのポイントは、「清掃用品」、「ホームクリーニング」、「おそうじ塾」の3つの事業が互いに好影響を及ぼしあう好循環(シナジー)にありそう。
- アズマ工業株は、清掃製品についてコンスタントに知的財産権を取得している。
- 直近では、壁面収納できる浴室用履物について特許及び意匠の知財ミックスでの保護を図っている様子がうかがえ、将来的に、この浴室用履物を清掃用品とのクロスセルを期待できる新製品として上市を目指しているのではないだろうか。