「株式会社松屋」のビジネスモデルや知財を分析してみた

  株式会社松屋(以下、「松屋」)について分析をしました。松屋は、2024年2月9日放送のテレビ東京の番組「カンブリア宮殿」で取り上げられました。本記事では、番組の内容に加え、各種の公開情報に基づいて松屋について私なりの考察をしました。

会社概要

 松屋は、東京の銀座・浅草にて百貨店業を営む会社です。
 松屋は、明治2年(1869年)創業の老舗です。2023年に創業家出身の古屋毅彦氏が現社長に就任そています。後述しますが、2019年には「デザインの松屋」を標榜したとされており、デザインへのこだわりが感じられます。
 松屋の経営理念は、「顧客第一主義」「共存共栄」「人間尊重」「堅実経営」「創意工夫」です。

業界

 松屋は、百貨店業界に属します。業界内の位置づけとしては、地方百貨店の代表的存在と思われます。銀座と浅草の2店体制のため、売上規模としては全国展開の百貨店大手(数千億円オーダー)と比べると1/10以下の412億円です。ちなみに、地方百貨店としては他に、中国地方を地盤に持つ天満屋があり、こちらの売上高は約2倍の854億円です。ただし、商圏が異なれば地方百貨店同士の連携も有効なため、他の地方百貨店とは必ずしも競合関係にありません。後述のように、松屋は、他の地方百貨店に対して装飾デザインをプロデュースして関係を深めているようです。

ビジネスモデル

 松屋のビジネスモデルを以下のビジネスモデルキャンバスにまとめました。

 ポイントは、(1)外商営業の強みを活かした富裕層顧客基盤の強化と、(2)デザインの松屋としての能力やブランドを活かした事業にあろうかと思われます。

 (1)外商営業による富裕層顧客基盤の強化については、 外商部隊が、御用聞きに留まらず顧客に銀座の提携店をアテンドしティファニーのVIPルームで買い物を体験してもらうなど従来の枠組みにとらわれない営業をされていた様子が番組で紹介されており印象的でした。また、松屋の有価証券報告(第155期)には以下の記載がありました。

事業戦略としては、百貨店事業の収益力強化と事業ポートフォリオの見直しに取り組んでまいります。百貨店事業では、当社の強みを発揮できる商品政策に加えて、顧客基盤の拡大と深耕を図る顧客政策、中でも外商事業を強化すること等により、営業力の強化を図ってまいります。その一方で、業務の見直しや店舗運営の効率化を行うこと等により、ローコストオペレーションの実現を目指してまいります。事業ポートフォリオにつきましては、中長期的に不動産関連事業を拡大することを企図し、本計画においては、保有資産の有効活用に取り組んでまいります。

 営業力の強化をすることで、富裕層顧客基盤に加え銀座の提携店とのネットワークの拡大や強化も期待できそうです。

 (2)デザインの松屋としての能力やブランドを活かした事業については、松屋銀座7Fのセレクトショップ「デザインコレクション」が代表的です。デザインコレクションは、1955年に日本デザインコミッティーと松屋が立ち上げたセレクトショップの草分け的存在です。デザインコレクションでは、日本デザインコミッティーのメンバーがセレクトした世界中のデザイングッズを販売しています。70年の歴史は、デザインの松屋としてのブランドを強く支えているといえそうです。松屋に行けばデザインのいいアイテムが買えるというイメージが顧客に定着しており、来店を促している側面も少なからずあるのでしょう。
 また、番組中でも紹介されていましたが、松屋は、地方の百貨店に対して地元の工芸品などを活かした優れたデザインの装飾をプロデュースしています。この事業は、デザインの松屋としての能力やブランドを高めると同時に、地方の百貨店との関係を強化する役割もありそうです。もしかすると、将来の業務提携やM&Aを見据えた下地づくりなのかもしれません。
 さらに、後述するFLAGもデザインの松屋としての能力やブランドを活かした新規事業といえるでしょう。

 上記(1), (2)のほか、来店客に対しては、地道な売り場づくり等による利便性向上により顧客の来店を促しているものと思われます。松屋の有価証券報告書には以下の記載が見られました。

主力となる百貨店業の銀座店におきましては、中期経営計画の諸施策の下、2023年3月に「ジェンダーレス」「エイジレス」等、お客様の購買行動の変化に伴う利便性向上を目指したメンズ・レディース一体の複合アパレル売場を5階に、また、12月には地下1階和洋菓子売場に、ラグジュアリーホテル「ザ・ペニンシュラ香港」にインスピレーションを受けて誕生した「ザ・ペニンシュラ ブティック&カフェ」等をオープンさせました。このように、顧客ニーズに応える魅力ある数々のリニューアルで収益の向上を目指しつつ、CRM(顧客関係管理)を推し進めることで、さらなる顧客基盤の拡大と深耕に注力してまいりました。

 番組中で紹介されていたレディース・メンズ商品を一緒に買い物できるフロアの他に、「ザ・ペニンシュラ ブティック&カフェ」等の新しい売り場づくりにより顧客ニーズを掘り起こしてきたことがわかります。

 「当店の強みを発揮できる商品政策」というのは、おそらく、例えば番組中で紹介されていた、銀座の名店の味が楽しめる冷凍食品などの地域の魅力を活かした商品づくりなどが該当するのでしょう。

知財

 松屋の知的財産の保有状況について順を追って説明します。なお、特許について超ざっくりな解説が欲しい方はこちら

商標

 商標は、74件の商標登録がありました。

 直近では2024年4月1日に「Future Leaders Academy in Ginza」(以下、「FLAG」)のロゴの商標出願がされておりましたので、こちらについて調査してみました。
FLAGは、要するに、ビジネスリーダーを目指す方向けの教育事業です。FLAGについては、有価証券報告書でも以下の言及があることから関心の高さが感じられます。

また、デザイン感度を持ったビジネス人材を育成する「Future Leaders Academy in Ginza」を開講いたしました。ものづくり産業や小売業をはじめ、各分野の「Made in Japan」に携わる全体の活性化を目的に、「国際的商業都市・銀座に本店を構える松屋」を教材とし、プログラムを通して次世代リーダーの育成を目指しております。

 FLAGのWebサイトによると、日本デザインコミッティーがカリキュラムの一部を担っており、特にデザイン面で専門性の高い教育を期待できそうです。とはいえ、募集人数が30人前後、受講料が600,000円(税抜)なので、売上規模としては数千万円のオーダーです。松屋の売上全体から見れば微々たるものなので収益事業として位置付けているわけではなく、社会貢献や地方創生的な側面が大きそうです。さらに、この取り組みがうまくいけば、2019年に標榜した「デザインの松屋」としての存在感をこれまで以上に示してブランド力の向上につながるかもしれませんし、日本デザインコミッティーとの関係もさらに強化されるでしょう。

特許

 特許については、1件の特許出願があり、調査時点では審査中でした。「組子格子飾りの製造方法、組子格子飾りの連結構造、組子格子飾り、及び組子格子飾りセット」という発明の特許出願であり、高知県の株式会社土佐組子との共有です。

 松屋所属の発明者が2名、土佐組子所属の発明者が1名なので、両社の共同プロジェクトの成果なのでしょう。「世界とつながる松屋銀座×高知県の組子」という記事がありましたので、ここで紹介されている地方創生プロジェクトと関連していそうです。

世界とつながる松屋銀座×高知県の組子」から引用

 また、その後に公開された、「知っておきたい、日本全国のものづくり “日本再発見”」という記事では、松屋銀座の店内装飾にも土佐組子が使われていることが紹介されていました。松屋銀座を訪れた際には、お買い物のついでに土佐組子の装飾を探してみるのも楽しそうです。

知っておきたい、日本全国のものづくり “日本再発見”」から引用

松屋としては、土佐組子を独自のデザイン技法の手札の1つとして、自社や取引先となる地方百貨店で活用していきたいというお考えなのかもしれません。

 さらに、松屋は、JIZAI KUMIKOとして土佐組子の販売を事業化されていました(参考 JIZAI KUMIKOのWebサイト)。ただし、こちらの事業名については商標出願が確認できず、有価証券報告書でも言及がなかったので、関心としてはあまり高くなさそうに感じました。

意匠

 意匠については3件の意匠登録がありました。なお、J-PlatPatでは、現状、意匠権が有効かどうかは結果一覧上に表示されず確認に手間がかかるため、この意匠権の総数には年金不能や期間満了により抹消された件も含まれている可能性があります。

 デザインへのこだわりから意匠の権利化も積極的にされているのでは考えましたが、実際には意匠登録件数だけ見れば特に多いわけではありませんでした。とはいえ、百貨店という業態であるため自社オリジナルの商品は限られますし、店舗の装飾デザインについては量産するものではないので意匠登録までは不要との判断をされているのでしょう。ちなみに登録意匠の創作者は全て、日本デザインコミッティーのメンバーであり、グラフィックデザイナーとして知られる佐藤卓氏でした。

知財まとめ

 まとめると、デザインの松屋としての能力やブランドを強化しようとする姿勢が知財活動の側面からも垣間見えました。

まとめ

  • 松屋のビジネスモデルのポイントは、(1)外商営業の強みを活かした富裕層顧客基盤の強化と、(2)デザインの松屋としての能力やブランドを活かした事業にありそう。
  • デザインの松屋としての能力やブランドを強化しようとする姿勢が知財活動の側面からも垣間見えた。

参考資料

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