「MAISON CACAO株式会社」(メゾンカカオ)のビジネスモデルや知財を分析してみた

 MAISON CACAO株式会社(以下、「メゾンカカオ」)について分析をしました。
メゾンカカオは、2025年2月6日放送のテレビ東京の番組「カンブリア宮殿」で取り上げられました。
本記事では、番組の内容に加え、各種の公開情報に基づいてメゾンカカオについて私なりの考察をしました。

会社概要

 メゾンカカオは、チョコレートを製造販売する会社です。
メゾンカカオは、現社長・創業者の石原紳伍氏がコロンビアを訪れた際、現地のチョコレート文化に強い感銘を受け、2015年に創業しました。
メゾンカカオのミッションは、「Deliver Wonder」(驚きを届ける)、とのことです。

業界

 メゾンカカオは、菓子業界に属しますが、会社四季報業界地図2025年版及び日経業界地図2025年版には記載がありませんでした。
番組のWebページによると、従業員数は約120名ですが売上高は非公表です。
業界内の位置づけとしては、適切な比較対象が見つからずよく分かりませんでした。
店舗数で比較するという手もありますが、オンラインショップの比重次第な側面がありあまり適切ではないと判断しました。

ビジネスモデル

 メゾンカカオのビジネスモデルを以下のビジネスモデルキャンバスにまとめました。

 ポイントは、原材料の調達活動と社長の個の力の2点ということになろうかと思われます。

 第1に、原材料の調達活動について説明します。
コロンビア生産者からカカオの独自調達ルートを有している点は差別化の面では大きな強みです。
カカオ生産量でいえば、コロンビアは世界10位でありメジャーどころではなさそうです(参考:「カカオ豆の生産量の多い国」)。
カカオは、テロワール(ワインでよく使われる用語ですが、私は「産地の特徴」くらいの捉え方をしています)が大事らしく、原産地が最終製品であるチョコの品質に与える影響は小さくなさそうです。
そうすると、元々パイが大きくないであろうコロンビアの調達ルートを先行して押さえておくことは、後発者が調達ルートを開拓しづらくなり追随を防止する効果があると推察されます。
また、メゾンカカオは、最高品質のフレーバービーンズを新鮮な状態で発酵させ、ブレンドし、板チョコ状に加工してから日本に輸出することで、カカオの魅力を最大限に引き出したチョコ作りを可能としています。
つまり、仮に後発者がコロンビアで調達ルートを開拓できたとしても、輸出前の加工体制を構築できない限り、最終製品の品質は劣ることになり、追随は難しそうです。
さらに、メゾンカカオは、フルーツなどのカカオ以外の原材料についても一素材一農園の原則で調達しています。
これにより、テロワールに基づく個性的なフレーバーが表現できたり、製品のストーリーが明確になったりするのでしょう。
このような原材料の調達活動は、最終製品であるチョコの上質さに大きく貢献しています。

 第2に、社長の個の力について説明します。
社長は、並外れた味覚を持ち、ショコラティエとして、全商品の開発に携わるほか前述の輸出前の加工時におけるブレンドの決定もしています。
会社の主要な業務活動のいずれにも欠かせない存在なわけです。
社長のバックボーンとして、チョコレートに関する製菓学校などの専門教育は受けていないというから驚きですが、だからこそ業界のパラダイムに囚われず、新たな挑戦ができるのでしょう。
番組で紹介されていた完全予約制のレストランではシェフとしてカカオの新境地に挑戦し、そこから新商品の着想を得ているようです。
一方、味覚に基づくスキルは言語化しづらく人的資産に留まりがちな側面があります。
つまり、メゾンカカオが組織として成長・存続していくうえで、社長の個の力は短期的にはエンジンとなるものの長期的にはボトルネックとなりそうです。
ブレンドについては味の再現によるAI技術などのテクノロジーによる解決が可能かもしれませんが、商品開発については新たな味の探求なので、当面は人間の役割でしょう。
このため、長期的な成長・存続のためには、社長以外のメンバーも商品開発ができるように育成すること、或いはアート的な商品開発力を要しない価値提案を探索することが課題と思われます。

知財

 メゾンカカオの知的財産の保有状況について順を追って説明します。

商標

 商標については、19件の商標権を保有しています。
近年では、2023年5月に「OLO DONUTS」、「VIDA」が出願されています。
 「OLO DONUTS」は、メゾンカカオが手がける、ヴィーガンドーナツのブランドであり、チョコレートドーナツには自社管理農園のカカオから作るチョコを使用しているようです(参考 「湘南発祥のヴィーガンドーナツブランド「OLO DONUTS」10月21日、茅ヶ崎開催のメゾンマルシェにてデビュー!」)。
ドーナツは、メゾンカカオのチョコレートに比べると価格的には低いですが、反面、商品開発のハードルも下がりそうです。

 「VIDA」は、チョコレートのメーカーブランドということで、クーベルチュール(製菓用チョコ)やタブレットを販売しています(参考 「メゾンカカオ社より、チョコレートのメーカー【VIDA】が遂に誕生。コロンビアの「テロワール」と「ブレンド」で作り上げる唯一無二の、鮮度の良いチョコレートとカカオ製品を提供します。」)。
明記はされていませんが、メゾンカカオがコロンビアから輸入している原材料(カカオを発酵・ブレンドして板チョコ状に加工したもの)をそのままに近い形で販売しているものと思われます。
特に、クーベルチュールは、趣味でお菓子を作る人も買うのでしょうが、どちらかというと洋菓子店向けのBtoBの製品として、原材料としてのチョコの品質の高さとメゾンカカオのブランドを付加価値として売っていくのでしょう。

特許及び意匠

 特許及び意匠については、メゾンカカオが保有する権利および出願はありませんでした。
製法は特許よりも秘匿化の方がなじみそうですし、製品や包装の形状については販売数が多いとかライフサイクルが長いとか模倣品が出回りそうとかであれば意匠権の保護が欲しいところですがそこまでの必要性は感じていられないのかもしれません。

 参考までに、菓子業界のうちチョコレートの会社として思いついたGODIVAとロイズについても調査しました
GODIVAは、包装やチョコの形状について合計6件の意匠権を保有していました。

ロイズは、包装について合計17件の意匠権を保有していました。

※J-PlatPatでは、現状、意匠権が有効かどうかは結果一覧上に表示されず確認に手間がかかるため、意匠権の総数には年金不能や期間満了により抹消された件も含まれている可能性があります。

 余談ですが、ロイズは、調査時点で有効な特許・実用新案はなかったものの、包装等について過去に複数件の実用新案を出願・登録をしており、存続期間満了まで年金を支払って維持していたものや、実用新案技術評価請求(ややマニアックですが、実用新案権の権利行使の前提となる手続きです)をしているものも散見されたりと、かつては実用新案制度を利用した知財戦略を採っていたことがうかがわれました。

知財まとめ

 まとめると、商標の出願動向からすると、メゾンカカオは、現在の主製品であるチョコレートの高度な加工品にとどまらず、ヴィーガンドーナツ(OLO DONUTS)やより原材料に近いチョコレート製品(VIDA)など事業の幅の広げる試みにも力を入れて取り組まれているように見えます。
これは、前述のアート的な商品開発力を要しない価値提案を探索する、という動きの表れなのかもしれません。

まとめ

  • メゾンカカオのビジネスモデルのポイントは、原材料の調達活動と社長の個の力にありそう。
  • メゾンカカオが組織として成長・存続していくうえで、社長の個の力は短期的にはエンジンとなるものの長期的にはボトルネックとなりそう。
  • 商標出願の動向からすると、アート的な商品開発力を要しない価値提案を探索しているのではないだろうか。

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