「株式会社マイステイズ・ホテル・マネジメント」のビジネスモデルや知財を分析してみた
株式会社マイステイズ・ホテル・マネジメント(以下、「マイステイズ・ホテル・マネジメント」)について分析をしました。
マイステイズ・ホテル・マネジメントは、2024年2月15日放送のテレビ東京の番組「カンブリア宮殿」で取り上げられました。
本記事では、番組の内容に加え、各種の公開情報に基づいてマイステイズ・ホテル・マネジメントについて私なりの考察をしました。
会社概要
マイステイズ・ホテル・マネジメントは、温泉リゾートホテルやビジネスホテルを運営する会社です。経営不振となったホテルを調達して事業再生することで、個性的なホテルを日本各地に生み出している点が特徴的です。
マイステイズ・ホテル・マネジメントは、投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループの完全子会社として、ウィークリーマンション事業会社として誕生しました。
その後、ウィークリーマンションをビジネスホテルに改装してホテル事業に参入、さらに現在のような事業再生型のホテル開発・運営を始めるに至ったようです。
業界
マイステイズ・ホテル・マネジメントは、ホテル業界に属しますが、会社四季報業界地図2025年版及び日経業界地図2025年版には記載がありませんでした。
業界内の位置づけとしては、番組によると棟数では業界5位、売上高は1200億円、従業員は7000名超とのことでした。
棟数と売上高でいうと、「ドーミーイン」ブランドで有名な共立メンテナンスと近いようです。
ホテル業界で事業再生というと、私の場合、星野リゾートが真っ先に思い浮かびましたが、こちらは売上高としては80億円程度であり、マイステイズ・ホテル・マネジメントに比べると規模的には小さいことが分かりました。
ビジネスモデル
マイステイズ・ホテル・マネジメントのビジネスモデルを以下の図にまとめました。
なお、Webサイトによると、マイステイズ・ホテル・マネジメントは、番組でフィーチャーされた個性派ホテル以外にも、「HOTEL MYSTAYS」などのブランドでスタンダードなホテルも多く手がけているようです。
しかし、後者については情報収集の負担を考慮して、今回は分析の対象とはしておりません。
ポイントは、施設の立地を活かした事業再生プランニングということになろうかと思われます。
番組では、施設付近の飲食店で名物料理を調査してビュッフェに採り入れたり、どんこ舟や釣りなど地元の観光資源を活かした体験を提供したりする様子が取り上げられていました。
組織資源的な観点では、一級建築士が在籍するリノベーションチームが社内に居るからこそ、願望に引っ張られ過ぎず、建築面の制約とコストも考慮した地に足ついたリノベーション計画が立てられるのでしょう。
また、個性的な宿泊施設を展開していることの強みとして、顧客が別の土地の宿泊施設も気になって、旅行の先々で泊まるようになる、といったリピータ化も狙えそうです。
特に、このような効果を狙うには、いくつかの施設を同じブランドとしてグルーピングしていくことが有効と思われます。
現状、マイステイズ・ホテル・マネジメントは、「KAMENOI HOTEL」と「ART HOTEL」の2ブランドを、土地毎の個性を打ち出したホテル群として扱っているようです。
一方で、番組で紹介された「ホテルエピナール那須」、「Hotel New Akao」など再生前のブランドをそのまま使用ないし流用されていると思われるケースも相当数見られます。
このあたりの理由は不明です。
再生前のブランド資産を活かした方がよいと判断したのか、上記2大ブランドに馴染まないため統合していないのか、ブランド存続が契約条件だったのか、これから段階的に統合されていくのか・・・?
今後、ブランド管理をどうしていくのか興味深いです。
なお、旧ブランドを利用することには正負両面があります。
旧ブランドの歴史や評判などは簡単には築けないので、それらが集客や値付けの正当化に寄与することもあるでしょうし、逆に顧客の期待する提供価値が旧ブランドによって刷り込まれているので変化に対し反発が生じるおそれもあります。
また、異なるブランド間での送客効果が殆ど期待できないうえ、広告宣伝もブランド毎にする必要があるので運営のコスト面では不利といえそうです。
知財
マイステイズ・ホテル・マネジメントの知的財産の保有状況について順を追って説明します。
商標
商標については、176件の商標権と61件の商標出願がありました。
かなり多いなという印象です。
参考までに、アパホテルの商標権は22件、共立メンテナンス及び星野リゾートの商標権はどちらも93件でした。
ビジネスホテル業界1位のアパホテルの約10倍なわけです。
マイステイズ・ホテル・マネジメントの場合、異なるブランドのホテルが多いほか、同一ブランドのホテルであっても例えば「亀の井ホテル草津リゾート」のように施設単位でも商標出願をされていることが、全体の件数を押し上げている一因といえます。
また、2024年には64件もの商標出願をされており(2023年は15件、2022年は9件)、ブランド戦略上何らかの転機があったものと思われます。
一覧を眺めていると、2024年10月3日に47件もの商標出願が提出されておりました。
内訳としては、飲食関連と入浴関連に大別できます。
飲食関連としては、ダイニング、リストランテ、バル、茶屋を含む名称から、「ラ・シュミネ」のようなぱっと見では飲食関連の名称かは判別つかないものも含めて「飲食物の提供」を用途(指定役務)とする出願が32件ありました。
入浴に関しては、「~の湯」やSPA、スパを含む名称について出願を中心に合計で15件の「入浴施設の提供」を用途とする出願がありました。
こういった出願動向からすると、将来的には、ホテルだけでなく、飲食体験や入浴体験の軸でのブランディングを目指していることが推察されます。
例えば、飲食サービスや入浴サービスをモジュール化してホテルを設計したり、独立した飲食施設や入浴施設の開発・運営も考えたりしているのかもしれません。
特許及び意匠
特許及び意匠について、マイステイズ・ホテル・マネジメントはいずれも保有しておりませんでした。
業界としてもあまり馴染まなさそうですし、マイステイズ・ホテル・マネジメントのようにサービスの特徴が立地に依存しがちな場合、あるホテルのサービスを他のホテルに移植するのが困難であったり不可能であったりするためなおさらでしょう。
一応、アパホテル、共立メンテナンス、星野リゾートについても調べてみたところ、アパホテルのみ、現在有効な特許権1件と特許出願2件を確認できました。
内容としては、予約の促進に関する施策や宿泊時の顧客の利便性向上施策を実現するITシステムに関するものでした。
知財のまとめ
知財についてまとめると、マイステイズ・ホテル・マネジメントは、業界内では商標出願を積極的に行っており、近年の出願動向からすると、ホテルだけでなく、飲食体験や入浴体験の軸でのブランディングを目指していそうだといえそうです。
まとめ
マイステイズ・ホテル・マネジメントのビジネスモデルのポイントは、施設の立地を活かした事業再生プランニングにありそう。
旧ブランドを利用することには正負両面があり、今後ブランド管理をどうしていくのか興味深い。
マイステイズ・ホテル・マネジメントは、将来的にホテルだけでなく、飲食体験や入浴体験の軸でのブランディングを目指しているのではないだろうか。